偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
美香ちゃんは軽い冗談のつもりで言ったのだろうけど、私の立場ではとても笑えなかった。

光一さんはなんとなく、私を選んだだけなのだ。結婚適齢期で無難な女。その条件に私がたまたま当てはまっただけ。
もし美香ちゃんが私と同じ歳だったら、選ばれたのは彼女だったかもしれない。

私はニコニコと受付業務をこなす美香ちゃんを見つめた。
明るくさっぱり、良くも悪くも欲望に忠実なイマドキの若い女の子。彼女なら光一さんとの仮面夫婦生活も悩まず受け入れていたような気がする。

光一さんがいつかそれに気がついて、パートナーを私から美香ちゃんや他の誰かに変更するかもしれない。
そんな風に考えたら、ますます気分が落ち込んだ。

昨日のデート中は、なにもかもうまくいくような気持ちになっていたのに。 
結婚して以来、まるでジェットコースターのように気持ちが乱高下して、私は常に情緒不安定だ。
独身時代は結婚はゴールで、その後は穏やかで落ち着いた日々が手に入るものだと思っていた。
あの頃の私は、なんてばかだったのだろう。

いっそのこと、光一さん希望の仮面夫婦を受け入れてしまおうか。そうすれば、楽になれるだろうか。

「はぁ。ほんとダメだな、私」

光一さんときちんと向き合うと決意したはずなのに、早くも心が折れそうだ。
彼の帰宅が遅かった。ただそれだけのことなのに、なにをこんなに落ち込んでいるのだろう。






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