偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
グダグダとため息ばかりついているので、整理途中の書類の束は一向に片づく気配もない。

「やった!初めて華さんより早く終わらせられたかも〜。てことで、私さきにランチ休憩いいですか?限定10食のパンケーキプレート狙ってるんです」
美香ちゃんがウキウキで言いながら、さっと席を立つ。会社の向かいにオープンしたばかりのカフェはリコッタチーズのパンケーキがウリで、評判がいいらしい。
「どうぞ、どうぞ」
「ありがとうございます!ていうか、華さん今日体調でも悪いんですか? 無理しないで課長に相談した方がいいですよ〜」
「んー、ちょっと寝不足なだけ。ありがとね」

美香ちゃんを見送ってから、私は気合いを入れ直して作業を再開する。
若くも美人でもない私が書類整理すらまともにできないようでは、本当にクビになってしまう。

ようやく作業に集中しはじめたところで、私は妙な視線を感じて手をとめた。
昼時のこの時間は受付への来客も少ない。ロビーに人はまばらだ。
入口横の大きな柱の影に隠れるようにして男が立っているのが見えた。
スーツ姿ではあるけれど、なんだかくたびれた印象だ。
こちらをじっと凝視しているような気がするけど、私の気のせいだろうか。
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