偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
「じゃあ、おつかれさまです」
「うん。もう遅いし気をつけてね〜」
「うち駅近だから、大丈夫ですよ!おやすみなさーい」
地下鉄の改札で美香ちゃんと別れ、私はひとり電車に揺られる。都会の夜11時なんてまだまだ人も多いし、電車も朝のラッシュかと思うほど混雑している。

だから、なんにも心配なんてしていなかった。まったくの無警戒! 
スタイル抜群、美人の美香ちゃんのことは心配していたけど、地味な私は自慢じゃないけど痴漢とかそういう危険な目にあったことは一度もなかったし……。
私たちのマンション(そろそろ、こう思ってもいいかしら)は駅から歩いて十分もかからない。ただ、閑静な住宅街を通り抜けるため人通りは少なく静かだ。

距離をあけるでもつめるでもなく、ぴたりとついてくるその靴音を、最初は気にしすぎなのだと思った。
もしかしたら同じマンションの住人さんとたまたま帰宅が一緒になったのかも。
いやいや、お向かいの豪邸のご主人かも。

けれど、一度気になり出すと想像は悪い方、悪い方へと向かっていく。
自意識過剰かもしれないけど……万が一、痴漢だたら?通り魔だったら?

ドクドクと鼓動が速くなり、膝が震えた。

私は進路を変え、ついさっき通り過ぎたコンビニまで戻ることに決めた。
もしおかしな人でなければ、何事もなくすれ違うはず……意を決して振り返ると、全身黒っぽい服を着た男がこちらを見ていた。そして、にやりと笑った……ような気がした。 






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