偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
男とすれ違って、コンビニに戻る勇気はなかった。私はあわてて踵を返して、震える足で走り出す。
全力で走っているつもりだけど、足がもつれてなかなか前に進まない。

恐怖で頭の中はパニック状態。男か追いかけてきているのかどうかすら、わからなかった。
無我夢中で走って角を曲がったところで、ドンと誰かにぶつかった。
背の高い男だった。冷静な判断力などなくしている私はその男をさっきの怪しい男と同一人物だと思い込んだ。

「き、きゃーーー!」
いざという時ほど声は出ないものだと、よく聞くけれど、私の場合は辺りに響きわたる大声が出た。
「た、助けて〜殺されるー!」
私は両腕を振り回しながら、叫び続けた。我ながら、意外とたくましい。

「華っ!落ち着け、俺だ」
変質者とおぼしき男から聞き覚えのある声がして、私ははじかれたように顔をあげ目の前の相手を見た。
膝からすうっと力が抜け、崩れ落ちるようにその場にへたりこんだ。
「こ、光一さん……うそ……変質者じゃなかったぁ」
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