偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
「そ、そうだったっけ?」
「きちんと相手の本質を見極めてからにしなさいって言ったわよ。それをあんたは、彼となら絶対大丈夫とかなんとか‥‥聞く耳持たなかったじゃない」
「だ、だって、あのときは舞い上がっちゃって。恋は盲目っていうじゃない?」
「そこよ。その盲目期に結婚決めるのが一番危ないの」
悠里は人差し指を私の鼻先に突きつけて、ピシャリと言ってのけた。
高校時代の成績は同じくらいだったのに、堅実な看護師資格を取り、優しい旦那様とかわいい子どもと幸せな家庭を築いている悠里にそう言われては、ぐうの音も出ない。たしかに私は甘かったのかもしれない。光一さんの裏の顔に気がつきもしなかった。
「付き合い出してからプロポーズまでの間に変だなって思う瞬間はなかったわけ?」
悠里に問い詰められ、私は光一さんとのこれまでを振り返る。付き合い出したきっかけはありがちなものだ。後輩が開いてくれた営業部との懇親会ーー受付嬢と営業マンが懇親を深めても仕事上のメリットは特にない。つまりただの合コンーーだった。

***
10ヶ月前。

「白川さんだよね?」
少し遅れて登場した彼、鈴ノ木光一さんにそう声をかけられたものの、私は驚きのあまり言葉が出なかった。社内に光一さんを知らない人はいない、だから当然、私は彼を知っている。でも、逆はないと思っていた。彼が私の存在を認識している、まして名前を覚えていてくれるなんて‥‥。
「あれっ、ごめん。名前、間違えてた?」
光一さんは申し訳なさそうに私の目を見た。私は慌てて、返事をする。
「いえ、いえっ、合ってます!白川華と申します。受付歴は四年で、今日のメンバーの中では一番年上です!」
みんなが一瞬、シンとなるほど大きな声で叫んでしまった。光一さんの隣の佐伯さんなんか、口元をおさえて笑いを堪えている。
けど、光一さんは私のテンパった自己紹介を笑ったりしなかった。

「あぁ、よかった。名前間違えるなんて、いきなり大失敗したかと思ったよ」
そう言って、本当にほっとしたような顔をしたのだ。そして、優しく微笑みながら私の耳元に顔を寄せてささやいた。
「白川さんのこと、ずっとかわいい子だなって思ってたんだ」

***








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