偽装新婚～イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない～

第5章 忍びよる不安

吐息がかかるほど間近に（シングルベッドだから当たり前か）光一さんの美しい寝顔がある。
女の私よりきめ細やかなお肌に、長い睫毛。
嫉妬する気もおきないほど完璧な美貌だ。その彼から、すーすーという規則正しい寝息が聞こえてくる。

ーー他人がいると落ち着かないとか言ってたわりに、ずいぶん熟睡してるし。
だいたい、こういうシチュエーションで相手が気になって眠れないっていうのは男性側の役割なんじゃ……。　

「はぁ～」
もやもやとした心の叫びを、ため息にかえて吐き出した。

さかのぼること三十分前。私たちはとてもいい雰囲気だった。
甘ったるいような、くすぐったいような、そんな空気に包まれていた……と思う。思いたい。
なによりも！めずらしく、というか、たぶん初めて、光一さんから私への『好き』を
感じた気がする。

それなのに、なぜ私がため息をつくような事態になっているのかというと、彼があっさりと
こう言ったからだ。

『よく考えたら、痴漢にあいかけたのにそんな気分にもならないか。ま、今日はゆっくり休め』
光一さんは幼い子どもを寝かしつけるように、私の背中に手を回しポンポンと優しく叩いた。

その紳士的な気遣い自体は嬉しいし、そもそも『寝室に入るな』だったのが『添い寝』
までランクアップしたのだから喜ぶべきところだろう。
実際、この無防備な寝顔を思いきり眺めていられることは、すごく幸せではあった。

でも、どうしても、もやもやする気持ちを消すことができない。

付き合っているときから感じていたことだけど、光一さんはガツガツしたところがまったく
ない。もてる男の余裕ってやつだと思う。そこが魅力になって、ますます彼はもてまくるのだけど……女としては少し寂しくもある。