偽装新婚～イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない～

私はパチパチとまばたきを繰り返す。光一さんの台詞と、記憶のなかの素敵なファミリーがどうしても結びつかなかった。
「うん？言ってる意味がよくわからないような……」
まったくもって、理解が追いつかない。
「外面だけは取り繕ってるけど、あの二人、本当は犬猿の仲なんだよ。親父にいたっては、外に子どもまで作ってるし」
ダブル不倫、愛人に隠し子、異母兄弟、泥沼の遺産相続争い。ワイドショーのテロップにありがちな単語が、私の頭の中を流れていく。
「う、うそ……人は見かけによらないって言うけど、よらなすぎるでしょ！」
「まぁ、俺の親だしな」
光一さんは、なぜかしたり顔だ。

「あっ！そうか、そうなんだ……」
「なんだよ？その哀れみに満ちた目は」
「両親の不仲に、幼い光一少年はいたく傷ついたんでしょ。それで、性格がひねくれまくって、結婚にも夢がもてなくなったのね」
仮面夫婦希望だなんて、まったく理解できなかったけど、やっぱり理由があったってことよね。
「よし、決めた！私の愛で、光一さんの歪んた心をきっと元に戻してみせるからね」
そう意気込む私の横で、光一さんは不思議そうに首をかしげている。
「いや、先走りすぎだから。つーか、ひねくれただの、歪んだだの、余計なお世話だ」
光一さんはごろりと寝返りをうって、うつ伏せになる。その状態から上目遣いに私を見て、ふっとほほえんだ。前髪のすきまからのぞく、薄茶色の瞳がとんでもなく綺麗で、私の心臓
をダイレクトに打ち抜く。

（やっぱり、このイケメンぶりはずるいよ。反則だ）