偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
「いやいや。どう考えても、超あやしいじゃん。なにその使い古された口説き文句は」
私の話を聞いた悠里は呆れ顔だ。
「話だけ聞くとそうかもしれないけど、実際にあの爽やか笑顔で迫られたら、抗えないよ〜イケメンはある意味、凶器なのよ」
少なくとも、あの時の私は抗えなかった。あの瞬間、憧れが恋に変わったのだから。

「だいたい、会社の受付嬢ってせいぜい十数人でしょ?よほどの馬鹿じゃなきゃ、名前くらい覚えるでしょ」
「全員で九人だけど‥‥光一さんみたいなエリートからしたら私なんて受付嬢その三みたいな存在だと思ってたから」
「それは自分を卑下しすぎ」
悠里はそう言うけど、私にとって光一さんは本当に雲の上の存在だった。同じ職場で働いているとはいっても、仕事以外で言葉を交わすことなんてあり得ないって思っていた。
「憧れのアイドルに話しかけてもらったら、誰だって舞い上がるでしょう?私にはそのくらいの事件だったのよ」
「まぁ、わからなくもないけどねぇ。で、まさか、その日のうちにお持ち帰りされたわけじゃないでしょうね?」
今日の悠里は結構細かいところまで追求してくるつもりのようだ。
「まさか!普通に楽しく飲んで、その日は解散。光一さんは私以外の女の子とも楽しそうに話してたし、まさか付き合うことになるなんて思ってもいなかったよ」
そう、だから後日デートに誘われたときはなんのドッキリかと思ったくらい。
「まぁ、たしかに‥‥。華は普通に可愛らしいと思うけど、あんたの会社、美人ばっかりだもんね。なんで華って疑問に思うわよね」
「そうなの! 会社の男性陣がやってる社内美女ランキングってのを耳にしたことあるんだけどさ‥‥私は圏外だったわ」
ちなみに一位は常務の娘でシステム課にいる弓月さん。この人は本物の美人だ。受付嬢からは後輩の美香ちゃんが三位にランクインしていた。
‥‥そんなわけだから、私は当然聞いた。彼に付き合って欲しいと言われたときに、なぜ自分なのかと。

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