偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
布団にごろりと寝転がって、私は呆然とその紙を見つめていた。
しばらくはショックでなにも考えることができなかったけれど、次第に
落ち着ついてきて、事態をのみこめるようになってきた。

(これって、やっぱり、私に出ていけって言ってるんだよね。張る場所を間違えた……とかじゃないよね)

この部屋は角部屋で、唯一のお隣さんは穏やかな老夫婦だ。

(あのおっとりしたおばあちゃんに、尻軽女はないもんね)

警察とかに連絡するべきなのだろうか。いや、この程度でするのはおかしい?こんな経験はじめてだから、どう対処すべきなのか見当もつかない。

(警察に相談したら、どうなるんだろう。名誉棄損?それともストーカーとか?)

「あっ、そうだ光一さん!光一さんに……」

この段階になって、ようやく光一さんに連絡するべきだということに気がついて、スマホに手を伸ばした。けれど、自分で思っている以上に動揺しているみたいだ。つかみかけたスマホを
落としてしまった。

「落ち着いて、落ち着いて。まずは光一さんに連絡を」

スマホの発信ボタンを押し、震える手で耳に押し当てた。
けれど、私は光一さんにつながる前に自らスマホを置いた。ある可能性に思い当たってしまったからだ。

(もしかして、犯人って光一さんの……)

考えだすと、そうとしか思えなかった。光一さんを想う誰かが、私を恨んでこんな手紙を出した。それが一番筋が通っているように思える。








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