偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
***
三回目のデート。

光一さんがエスコートしてくれる一日は、女の子の夢と希望(訳:お姫様気分を味わいたい!)にあふれていた。自宅まで車でお迎え、ホテルのラウンジでちょっと豪華なランチ。文句もいわずウィンドウショッピングに付き合ってくれて、夜は話題のイタリアンレストラン。帰り際には、ピアスやネックレスなんかの重すぎないアクセサリーをさりげなくプレゼントしてくれる。もちろん、無理やりホテルに誘ってきたりなんてしない。

ファーストフードでお茶とか、彼のアパートで一緒にゲームとか。そんなごく普通のデートしかしたことなかった私には光一さんとのデートはまさに夢のようだった。そして、夜景の見えるレストランでの告白‥‥。

「もしよかったら、結婚を前提に俺と付き合ってください」
小細工なしのストレートな告白は、それはそれはかっこよくてーー、自分に向けられた言葉だなんてなかなか信じられなかった。
「えっ⁉︎ 付き合うって、光一さんが私と?結婚って、私なんかと‥‥?」
「うん。いつもニコニコしてて、素直で女の子らしくて。華みたいな子が奥さんになってくれたら幸せだなって」

***

「受付嬢なんだから、ニコニコしてんの当たり前じゃね? そんで、付き合って三ヶ月程度じゃ大抵の女は素直だろうが」
悠里は眉間に皺を寄せて、毒を吐く。
「わー、顔と口調が元ヤン風味に‥‥梨々ちゃんの前だからやめて〜」
梨々ちゃんの名前が効いたのか、悠里はふーと息を吐くと優しいママの顔に戻って言った。
「なんか‥‥悪いとはいわないけどさ、乙女ゲームの登場人物みたいね。人間味に欠けるっていうか」
「あぁ、最近よくCMしてるやつ?たしかにあれのヒーロー、光一さんに似てるかも」
チーズケーキを平らげた私は悠里のいれてくれたミルクティーに口をつける。茶葉の良い香りがふわりと鼻を抜けていく。
「ねっ、悠里。この紅茶どこの?美味しいね」
「あんた、意外と呑気ね。言っとくけど、ゲームやら漫画やらのヒーローみたいな男は現実にはいないわよ。私の経験上だと、男はウィンドウショッピングもイタリアンも夜景も本心では興味ないわよ」
「つまり、本心じゃない‥‥と」
「あら、わかってたの。なら、いいけど」
「あの豹変ぶりを見たら、そりゃあね。要するに、これまでの光一さんは全部演技だったってことよね」



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