天馬空を行く


「すみません。

ここに娘が入院していると伺ったのですが
どこの病室か教えていただけますか?」


そう言って病院の受付に来たのは、

場違いな大きなスーツケースを手にしているスーツ姿の男。



『失礼ですが、ご家族の方ですか?』

と受付のスタッフが質問する。




「ええ、私の娘でね。
単身赴任で海外に居て、仕事が一段落着いたので急いでここに向かったのでこんな格好という訳なんですよ。」


そう説明すると、受付のスタッフは何も疑わず病室を教えた。


男は受付のスタッフにお礼を言い、その場を去った。



病院内では不釣り合いなスーツケースを転がす男を見つめる者もいたが、彼は愛想よく会釈をして通り過ぎる。



そうやって愛夏の病室まで向かったのだった。

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