シンデレラLOVERS
「……健気ね、日菜」
有宮くんの靴箱にお弁当だけ入れて帰ろうかと考えたけど、さすがにそれはなんだか気が引ける。
悪いとは思いつつ、ご近所さんの芹華ちゃんにお願いして有宮くんにお弁当を届けてもらうことにした。
わたしたちの馴れ初めを知ってる芹華ちゃんは、事情を説明したその瞬間から有宮くんのことを良く思ってない。
むしろ、嫌ってるくらいだ……。
熱で赤くなった顔でお弁当を差し出すわたしに、芹華ちゃんが大きなため息混じりに頭を撫でてきた。
「で……有宮くんに連絡はしたの?」
「ううん。必要以外はメールしないでって言われてるから」
「はぁ!? 何それ! 何様のつもりよ!」
芹華ちゃんの怒りがたっぷり含まれた大きな声が、熱でぼんやりしてる頭の中に響いた。
芹華ちゃんのいつもキレイに描かれた眉毛のはしっこが、さっきからピクピクとひきつっている……。
怒り心頭の芹華ちゃんを目の当たりにしながら、頼まない方が良かったかなぁ……なんて後悔してももう遅い。
「ごめんなさい……芹華ちゃん」
申し訳なくなって頭をペコリと下げたら、堪えていた咳が出てきて……頭もますますぼんやりしてきた。
「せっかく日菜が熱出しながら作ったお弁当だから仕方なく届けるけど……。これはあくまでも日菜の為だからね!」
そう言いながら渋々お弁当を受け取った芹華ちゃんは、明らかに不満げな顔をして語尾を強調させた。
「ありがとう」
「いいって。それよりちゃんと寝てるのよ? わかった?」
有宮くんをますます嫌ってるのが痛いほど伝わってくるけど……それでもこうやってわたしの頼みを聞いてくれる芹華ちゃんは優しい。
わたしはもう一度だけお礼を言って、学校に向かう芹華ちゃんに手を振って見送った。