シンデレラLOVERS
確かにアドレスの中に誕生日の数字を入れてる。
けど、そんな話を日菜琉としたことすら俺は覚えてなかった。
「これ、なに?」
渡された紙袋の中身をのぞき込みながら、傍らでにこにこと笑ってる日菜琉に聞いてみる。
「苺ムースだよ。有宮くん苺好きって言ってたから」
「……言ったっけ?」
「うん。わたしがお弁当に苺入れてもいい? って聞いたら、苺好きだからいいって」
どうせ適当に相づち打ってたんだろうな……その時の俺。
だから、そんな些細なことをいちいち覚えてるワケがなかった。
コイツとカップルぽいことなんて勘弁だって思ってた矢先に、自分でも忘れてた誕生日を不意に日菜琉に祝われてしまった。
さっさと一ヶ月が過ぎて、紘也を見返せればそれでいい。
そう思ってたのに……こんなことをされたらさすがに俺もなんか……少しは嬉しいとか思ってしまう。
だから、無意識に俺はこの言葉を口にしていた。
「……ありがと」
付き合って初めて、日菜琉にお礼を言った気がする。
打算も計算もない心から自然と出た声は、俺の思ってる以上に小さくて弱々しかった。
それがなんとなく気恥ずかしくて、まともに日菜琉の顔が見れない。
なんだ、このカッコ悪いの。
「うんっ」
チラッと視線を向けて窺い見れば、ほっぺたをピンク色にしてやたら嬉しそうに笑ってる日菜琉が俺を見つめていた。
なんで本人の俺より嬉しそうにしてるかな……。
そんな顔、やめろって。
なんか気恥ずかしくてどんどんペースを崩されていってしまう。
「あとね! 間に合わなかったけど、ほら!」
そんな俺をよそに。
嬉しそうに表情を緩めた日菜琉が差し出したのは、編み棒がついたままの編みかけのマフラーだった。