シンデレラLOVERS
「有宮くんの好きなカーキ色にしてみました」
カーキ色が好きって俺はいつ日菜琉に言ったんだろう。
言われてみれば、毎日靴箱に入ってる弁当袋もカーキ色だ。
これも多分日菜琉に聞かれたんだろうけど……やっぱり俺の記憶の中にこのやりとりは見当たらなかった。
「今日には間に合わなかったけど……完成したらわたしの前で巻いて欲しいな……」
こう言って一瞬、日菜琉は寂しげに目を伏せる。
俺が半ば脅すみたいに一方的突き付けた関係の中で、ずっと日菜琉が一生懸命彼女をつとめてくれようとしてること。
例え一ヶ月の間だけでも、俺はコイツの彼氏なんだって今になってようやく実感してる。
それから、俺らが期間限定であることを日菜琉がちゃんと意識してるってことも……。
……そっか。
日菜琉はずっと一ヶ月間の彼女として出来ることを精一杯がんばってくれてたのに……ずっと彼氏をサボってたんだな、俺は。
「間に合えばな」
素っ気なく答えた俺に傍らの日菜琉は、目を伏せて小さく微笑んだ。
「うん……がんばる」
その横顔が俺の胸を小さく鈍く痛くする。
たった一言、
「おまえと一緒のときに巻くよ」
俺が言ってやればきっと、日菜琉は嬉しそうに笑ったんだ。
右手に苺ムースの重みを感じながら、不意に胸の奥がチクリと痛んだ気がした。