シンデレラLOVERS

「あっ、有宮くん」


……じゃねぇよ。



教室からの全力疾走したおかげで息を切らしながら駆け寄った俺に、日菜琉はいつも通りの呑気な笑顔で笑いかけてきた。


「……おまえ」

「お疲れ様。補習終わった?」


まだ息が整わない俺の言葉より先に、日菜琉が俺に声をかけてくる。


クリスマスを控えたこの季節。
夕暮れが早くなって既に薄暗くなり始めた空に、吹いてる風が一層冷たく感じられた。


「……なんで?」


俺の補習のことを知ってるのか……。


補習だったって自分から言う前に、日菜琉の方から言われて呆気に取られる俺に、



「有宮くんの友達……城崎くんっていう人が教えてくれたの。補習のこと」


小さく笑った日菜琉が出した名前に、思わず顔をしかめそうになった。


城崎は紘也の名字だ。


多分、待ち合わせ場所でぼーっと待ってた日菜琉に見かねて声かけたんだろう。



「ぼーっと待ってないで、メールでも電話でもしてくればいいだろっ」


何も言わないで寒空の中を三十分も待ってたコイツのバカさ加減に苛ついて、思わずキツイ口調になってしまう。


ピリピリした顔してるだろうな、今の俺。


こんな顔で思ってたことそのまんま口にしたから、目の前にいた日菜琉の顔が不安そうに曇っていってしまう。



「そうだよね。ごめんね」


そしたら、困ったように笑った日菜琉が俺に謝った。


そんな日菜琉を見て、俺はまた苛ついてしまう。


何にも言わずに待たせたのは俺の方だ。
だから俺が苛つくなんてお門違いってわかってる。


わかってるけど……文句も言わずにヘラヘラ笑ってるだけの日菜琉が理解できなくて、苛ついてしまう。



本来謝るべきなのが俺だってことも、頭の中ではわかってる……。


< 37 / 115 >

この作品をシェア

pagetop