シンデレラLOVERS
「中学生の時から毎年見に来てたんだけどね、そこで毎年見かけるカップルがいたの」
ライトアップされたシンボルツリーを見上げたまま、日菜琉がポツポツと話を始めた。
コイツがこんなに長く話しかけてくるのが珍しくて、俺はそれに黙って相槌を打つ。
……相槌を打つのだけは得意だからな。
でも今は、いつもみたいな上の空でも適当でもない。
真剣に日菜琉の話に耳を傾けている。
「そしたらね、去年その人たちが赤ちゃんを抱っこして見に来てたんだ」
ここで日菜琉が嬉しそうに笑って、シンボルツリーから視線を俺へと動かした。
嬉しそうにはにかんだ笑顔。
俺は……そんな顔されても、どんな風にリアクションを返したらいいのかわからない。
「結婚したんだ?」
「きっと。幸せそうだったよ」
そう言って、浮かべていた日菜琉の笑顔がもっと嬉しそうな満面の笑顔に変わった。
ホント、日菜琉はいつでもバカみたいに笑うヤツだ。
「それからわたしの夢なんだ。……大好きな彼氏とここに来るの」
照れくさそうにつぶやいて俺から目を離した日菜琉が、再びイルミネーションに視線を戻した。
そんな夢を持ってたのか……この場所に。
ちょっとした罪滅ぼしのつもりだったけど……選ぶ場所間違えたな、完全に。
残念だけど実際に隣にいるのは、日菜琉のささやかな夢さえぶち壊してる期間限定の彼氏だ。