シンデレラLOVERS

「今日家に誰も居ないの」


静葉と並んで歩く帰り道。
俺の腕に絡みつくように体を寄せた静葉が、こう言って上目遣いに俺を見つめてくる。


これは合図だ。

誘われるように腕を静葉に引かれながら玄関に入るなり、俺の首に手伸ばした静葉が唇を塞ぐ。


目の前で物欲しそうな顔した静葉の瞳が、俺を強く捕らえ誘ってくる。



一瞬。
たった一度だけ交わした日菜琉とのキスが頭の片隅に蘇った。


震えたほのかに温かい柔らかなキス……。
遠慮がちに触れて、すぐに離した日菜琉の潤んだ瞳がフラッシュバックした。


……なんでこんな時に思い出したりするんだよ。


それをかき消すようにギュッとまぶたを瞑り、今度は俺から静葉にキスを返す。





それから先はただ無心で静葉を抱いていた。



……この時の為に俺は経験値を積んできたんだ。
言い聞かせるように頭の中でずっと繰り返しながら、静葉の体にひたすら意識を集中させた。



「善くん、すっごく上手になってる……」



満足げなとろけた甘い表情をした静葉が、ベッドに横たわりながら俺の耳元に囁く。


そんな静葉を交わして上体を起こした俺の背中に、静葉のしっとりした指先が触れた。



余韻に浸る静葉とは反対に何となく、静葉の隣で彼女を抱きしめる気分にならなかった。


身体が満たされたはずなのに、心も満たされない自分が不思議で仕方無かった。



静葉の言葉は俺にとって最上級の褒め言葉なはずなのに……。



静葉の褒め言葉から俺は、静葉の経験の豊富さばかりを感じざるを得なかった。



だって……そうだろ。



誰と比べて俺は上手いんだ。

お前がこなしてきた男たちの何番目だよ。




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