勿忘草―愛を語る花言葉―
「佐倉と二人で飲むのは初めてだよな」
「そうですね、藤堂さんが甘党って初めて知りましたし」
「アハハッ、そうだな〜。上司がいれば付き合いでビール飲むけど。今はその必要ないだろ?」
再び煙草に手を伸ばす藤堂さんは、楽しそうに肩を振るわせながら話しをしていた。
そんな間にも次々と運ばれてくる料理。
自分が何も頼んでいないことに少し焦り、再びメニュー表に手をかける。
「焦って選ぶ必要はないぞ? 自分のペースでいけばいいんだよ、ゆっくり考えな。ま、俺は先に食べるけど」
煙草の煙を正面に吐き、顔の角度を変えて柔らかな笑顔を向けてくる。
すべてを悟り、諭すような藤堂さんの言葉。
俺はメニューに目を向けながらも、凪咲のことを思い出していた。
俺に向けられる笑顔、かけられる優しい言葉。
嬉しそうに名前を呼ぶ声。
すべてが俺にとっては不可欠。
だからこそ海外転勤が決まったことも言えなかった……。
凪咲が……と言うよりは俺が、凪咲を日本に置いていけるんだろうか。
心配で不安なんだ。