勿忘草―愛を語る花言葉―
旧校舎の前を通り過ぎると、なだらかな傾斜の坂道。
右手奥に見えるのは立て続けに立ち並ぶサークル会館。
多くの在校生らしき人が、その一〜五号棟の前で賑わっている。
大きな花束を抱えている人や、ラッピングされた袋を持っている人。
円陣組んで何やら相談している人に既に大泣きしている人。
……まるで凪咲みたいだな。
フッと笑うと同時にふと思った。
……後ろを振り返った俺はその場に立ち止まる。
それさえ気付かず、俯きながら駆けてくる姿を見て、
「凪咲……」
俺の横を素通りしようとした凪咲の腕を掴みとり、声をかけた。
「……はや……とっ」
擦れた声で俺の名前を呼んだ凪咲は、顔をあげた拍子に大粒の涙を零した。
ったく、変わらないな。
「まだ会ってもいないだろ」
ジャケットの内ポケットから取り出した黒のハンカチを手渡す。
涙で溢れた顔はぐしゃぐしゃになり、黒い線を描いている。
「だって……だって……先輩卒業してほしくないもん……」
鼻を啜り肩を震わせながら泣くその姿は、幾度となく見たことのある光景だった。