勿忘草―愛を語る花言葉―
「俺のことはいいから、ほらっ」
彼女の前に差し出した右手。
キョトンとして目をパチクリさせる彼女。
ったく……。
尻餅をついたままの彼女の白く細い腕に指を回し、
「立てる?」
「は、はいっ!」
体を引っ張り立ち上がらせた。
「彼女〜荷物拾っておいたよ〜」
俺の前に茫然と立ち尽くしていた彼女は、昴に「すみません」と何度も謝りながら荷物を受け取る。
この娘謝ってばかりだな。
何となく放っておけない。
目が離せない。
会って間もないというのに、そんな雰囲気を醸し出していた。
そうだな……、何だか妹みたいな感じがする。
「新入生? 名前は?」
「えっと、はい。あの……なぎさ、藤井凪咲です」
「なぎさちゃんね、もうサークルは決めた?」
「いえ、まだなんですけど」
横から昴が腰を指でつついてくる。
分かってるって。
「じゃあさ、俺らのサークルに入んない?」
「あ、はいっ!」
それは勢いで言わせたような言葉だったけど。
それに俺が自ら勧誘するなんて、正直、自分自身に驚いているんだけど。
「俺は三年の佐倉隼人。よろしくね」
挨拶をした俺に、彼女は少し頬を染めて笑顔を向けた。
――これが、彼女、藤井凪咲と初めて出会った日のことだった。