勿忘草―愛を語る花言葉―
「え? 来るんですか!」
「バイト終わってからだから十一時前になるけど、それでもいいなら」
「何時でもいいです! 来てくれるならいつまでも待ってます!」
……この娘、やっぱり天然?
嬉しそうに頬を染め、明らかに緩んだ顔。
声のトーンも少し高くなって、まるでバックに花でも背負ってそうな雰囲気を醸し出す。
俺に気がある?
……なんて誤解しそうなほど。
「プッ!! 凪咲ちゃん可愛い〜っ!」
そう言った華に突然抱きつかれた彼女は、目を泳がせて固まる。
可愛いな、確かに。
素直で感情表現豊かで、思わず構いたくなるような娘。
……さてと、そろそろバイトに行かないとな。
腕時計で時間を確認して、彼女に目を向けて、
「じゃあ、またな」
抱きつかれたままの彼女に聞こえるように声をかけると、ほほ笑みながら手首を動かし手を振ってきた。
俺はそれを見て、それぞれが盛り上がっている部室を静かに後にした。
華には後でメールでも打っておくか。
階段を駆けおり、未だサークル勧誘で賑わう中庭の端を通り、人の間を擦り抜ける。
藤井凪咲……。
この時はまさか、後々彼女のことを好きになるだなんて微塵も思っていなかった。
“可愛い後輩”
ただそれだけの感情だったんだ。