勿忘草―愛を語る花言葉―
笑いで溢れる中、呆然としていた彼女と目が合い、体を近付けて話しかけた。
「送るよ、ここから家は近い?」
「あ、はい……歩ける距離です」
「じゃ行くか。ほら、立って?」
先に立って着いてくるよう促したが、彼女は顔を伏せて動こうとしない。
その様子が気になり伺っていると、ゆっくりと顔を上げ恥ずかしそうに微笑んだ。
「あの……」
周りの声にかき消されそうなくらいの小さな声に耳を傾ける。
俺以外のやつらも何事かといった風に彼女を見つめ、騒がしい店内を余所に、その空間だけは静寂と化した。
「足が痺れちゃって……立てないんです」
静寂は束の間だった……。
「アハハッ、凪ちゃん可愛いー」
「隼人お姫さま抱っこしてやれば〜!」
「凪ちゃんって天然だよね」
再び辺りは大爆笑。
笑ったらいけないと思いつつも、俺さえ吹き出しそうになるのを必死で堪える。
本当に彼女は天然だ。
天然記念物。
今まで周りにいなかったタイプの女。
「痺れが治ったら声かけて、家まで送るから」
その言葉に彼女は顔を赤らめながら頷いた。