勿忘草―愛を語る花言葉―
「隼人、私も送って?」
「はっ?」
祥子の突然の言葉に、間の抜けた声を出してしまった。
普段はそんなこと言うような女じゃないのに……。
なんて不思議に思っていると、そんな俺を見て祥子は豪快に笑いだした。
「アハハハハッ!! 冗談よ、冗談。隼人って私の時は女扱いしてくれなかったから、ちょっと羨ましくなっただけ」
「……って、俺が“送る”って言ったって“私は平気〜”なんて言ってたのはそっちだろ!」
「ハハッ、そうだったね〜」
付き合っていた時もこんな会話の繰り返し。
あの頃も今も、祥子との関係は何も変わっていない。
ため息をついて生ビールを一気に飲み干しながら、足が痺れて動けないと言っていた彼女を横目で見た。
どうやら足の痺れは治まったみたいだな。
隣のグループの話に参加しつつも目がうつろで眠そうだ。
呼んでって言ったけど、呼びにくいか……。
祥子は付き合っている時、こっちが守ってやりたくてもそれを跳ね返すくらいの女だった。
だけど彼女とは付き合ってもいないのに、目を離すと心配で仕方がない。
何度も言うけど、付き合ってもいないのに。
好きと言うわけでもないのに。
対照的な二人だな……なんて考えながら、ジョッキをテーブルに置き、祥子に「凪咲のところに行って来る」と告げた。