勿忘草―愛を語る花言葉―
彼女の元へ行こうと立ち上がる瞬間、祥子に服の裾を掴まれグッと体を引き寄せられた。
口元に手を添えて俺に向かって耳打ち。
「凪ちゃんのこと“凪咲”って呼び捨てだし」
クスクスと笑いながら体を離して俺の顔色を伺う。
そう言えば……“凪咲”って言ったな。
さっき起こした時の彼女が、俺の中でよほど印象的だったのか“凪咲”って呼び方が定着していた。
周りは“凪ちゃん”って呼び方で定着しているみたいだけど。
“凪ちゃん”
……うーん、何だか違和感を感じる。
「特に深い意味はないから」
「へぇ〜、そうなんだ」
何もかも見透かすような目で見つめられるも、やましい気持ちもないし平然とする。
すると今度はニヤニヤと意味ありげな表情を浮かべ、鼻でフッと笑って口を開いた。
「隼人……本当に送り狼になるんじゃないよ」
「なるか、バカ」
ケラケラ笑いだした祥子に向かってデコピンをすると「痛っ〜」と笑ったまま頭を押さえる。
この反応、きっと痛くないな。
そろそろ彼女を送らないといけないし。
いつまでもこんなやりとりを続けるわけにはいかないと思った俺は、再び祥子に告げ、今度こそ本当に彼女の元へと向かった。