勿忘草―愛を語る花言葉―
「佐倉先輩!」
近づいた俺に向かって、嬉しそうに頬を緩めた表情を見せる彼女。
「立てる?」
「はいっ! もう大丈夫です」
俺の言葉に即座に反応した彼女は、急いで荷物と上着を手に取って立ち上がった。
俺は先に靴を履き、カウンターでオレンジジュースを飲んでいる華の元へ行って二人分のお金を渡した。
「凪ちゃんのこと任せたわよ」
「あぁ、送ってそのまま俺も帰るから」
華が軽く頷いたので、既に靴を履いてボーッと立っていた彼女を呼び寄せた。
「バイバイ、凪ちゃん」
椅子をクルッと回し、正面を向いた華が彼女に手を振る。
「あ、今日はありがとうございました!」
後は静かに去ろうとしていたのに……
彼女の声があまりにも大きくて、
「二人で抜け出すの〜? やらしいなぁ」
「隼人〜、惚れたのかー!」
「凪ちゃん気をつけてね、隼人ムッツリだから……ププッ」
思いっきり冷やかされた。
元はと言えば「送れ」って言われたから送るのに。
まぁ……このメンバーはいつもこういうノリだし、早々に立ち去るに限る。
「凪咲ちゃん、行くよ」
やっぱり、いきなり呼び捨てはまずいよな……
と思いながら、一言彼女に言葉をかけて俺は先に店を出た。