勿忘草―愛を語る花言葉―
微かに目に映る夜空に散りばめられた星に、暗い夜道を照らす三日月。
賑わいをみせる居酒屋が立ち並ぶ通りを過ぎれば、外灯も少なく閑散とした住宅街に入る。
目が行き届くようにと、彼女の歩幅に合わせてゆっくりと歩いていく。
たまに何もないところでつまづく彼女を見ていると、送ってやって正解かな、なんて思う。
ましてや日付も変わろうとしている深夜の暗い夜道。
女一人で歩かせるには危険。
やっぱり祥子が特別なんだよ。
「一人で帰れるし! 隼人は心配性なんだから〜」なんてよく言われていた。
そんなものなのか?
なんて少し思っていたけれど、彼女を見ているとそんな考えは一瞬のうちに打ち消される。
「……大丈夫?」
前のめりになった彼女の腕を反射的に掴む。
「はい……すみません」
ダメだ、もう……。
「プッ……ククク……」
「笑わないでくださいよ」
とうとう堪えきれなくなって笑っていると、彼女は眉を下げて微笑みながら俺の顔を見つめていた。
「ごめんな。あまりにも同じことしている凪咲……ちゃんが可愛くてね」
「か……可愛い? えっ、あっ、っと」
外灯に照らされた顔がみるみる赤くなっていく。
口はパクパクさせて、目はパチパチ。
ん……?
俺、何気に「可愛い」だなんて口に出してた?
「あれ、佐倉先輩も顔……赤くないですか?」