勿忘草―愛を語る花言葉―
「ありがとうございました」
彼女が住んでいるマンション前に到着し、深々とお辞儀をされる。
またバックをひっくり返さないかと不安に思っていたものの、
どうやらちゃんとファスナーをしていたみたいで、ホッと肩を撫で下ろす。
「じゃ、またな」
そう言って軽く手を上げ、早々に歩き始めた。
さすがに疲れた……。
朝から大学に行って、サークル勧誘してバイトに行って。
明日も一限から講義だし、早く帰って寝るか。
ポケットに両手をつっこみ、明日のことを考えながら外灯に照らされた道を歩いていく。
「寒いな……」
春とはいえ夜は冷え込む。
一度風が吹けばその寒さに身を震わせ、心なしか寂しく感じてしまう。
それは……
さっきまでこの道を二人で歩いていたからなのか、
ただ単に夜の寒さにそんな感情を持ってしまったのか。
まぁ、彼女といると楽しかったから、な。
本当に会って間もないのに、こんなに構ってしまう娘も初めてだ。
彼女のことを思い出し、フッと笑いが出る。
……その時だった。
パタパタパタッ。
突如聞こえてきた足音に、まさかと思いつつ恐る恐る後ろを振り返る。
「あ……あのっ!!」