勿忘草―愛を語る花言葉―
――その言葉通り、凪咲はやってきた。
「え、分かった。今から行くから鍵開けて待ってて。番号は……」
携帯の電源ボタンを押して通話を切り、ポケットの中にしまう。
2限後の休憩時間。
珍しくまともに講義を受けていた昴が隣でにやつく。
「今の電話、凪ちゃんから?」
「あぁ、今部室の前にいるらしいんだけど」
俺がいる本館の校舎から、部室のあるサークル会館まではかなり距離がある。
自然と早足になりながら向かっていく俺に、
「そんなに急いじゃって。早く会いたいってか!」
からかいモードの昴。
「そんなんじゃないって。大体昴が誘ったんだろ?」
「照れない照れないっ!」
「はぁ……。好きに言っとけ」
「お、ようやく認めたか!」
豪快に嬉しそうに笑う昴を無視し、どんどん進んでいく。
慣れない場所で一人で待つ凪咲は、きっと心細いだろうなぁと思って。
気分はすっかり兄のような父親のような、保護者感覚だった。
あいつは俺が勧誘したわけだし。
何だか放っておけない娘だし。
俺の中にはいつしか、正義感のような使命感が生まれていた。