勿忘草―愛を語る花言葉―
カツカツカツッ。
ヒールの音が部室の外から近づいてくる。
だんだんと大きくなっていく音が止まると、ドアの向こう側に人影が見えて、
「あれっ? 凪ちゃん寝てるんですか?」
ドアが開いて千理が顔を出した。
「あぁ。俺が来た時には既に寝てて。あれっ、昴は?」
「約束忘れてたんでパシらせてます、多分もうすぐ来ますよ」
クスッと鼻で笑い微笑して部室に入ってきた千理。
あの明るくてお調子者の昴も、千理の前じゃ形無しってか。
少しばかり哀れみを含みつつも、俺も千理と同じように微笑した。
「で、隼人先輩、凪ちゃん起こさないんですか?」
「起こしたんだけどさ」
「そっか、起きなかったんですね。あ、昨日みたいに“凪咲!!”って呼んでみたらどうです?」
昨晩のことを思い出したのか、千理はクスクス笑いだして俺は苦笑い。
「あんな隼人先輩初めて見ましたよ。案外凪ちゃんとお似合いの二人かもしれませんね?」
物事を客観的に見て、いつも適格な発言をする千理。
そんな千理からこんなことを言われるだなんて思いもしなくて、言葉を上手く返せなくて笑ってごまかした。