勿忘草―愛を語る花言葉―
心乱れる胸の内
「なーに浮かない顔してんだよ。ほらっ」
「……藤堂さん」
仕事の休憩時間に屋外のベンチに一人で座っていると、そんな俺目がけて缶コーヒーが飛んできた。
それを片手でキャッチしている間に、隣にドカッと腰をかけて煙草を吸い出す。
藤堂恭司(トウドウキョウジ)さん。
俺の四つ上の会社の先輩。
「ありがとうございます」
もらった缶コーヒーを両手で握り締めたまま、軽く頭を下げて遠くを見つめる。
そんな俺の前にさり気なく差し出されるジッポ。
口に煙草をくわえ、目で合図してくる。
俺は缶コーヒーをベンチに置き、胸ポケットに入れてある煙草を取り出した。
ジュッ――。
鈍い音が聞こえ、深く吸う。
一度肺まで入れた煙が、ため息ともとれるような息として吐き出される。
白く細い煙は、穏やかな風に吹かれ拡散していく。
凪咲の前では決して吸うことのない煙草。
……煙が嫌いって言うからな。
うやむやとした心を落ち着かせるように吸っていた煙草は、気づけばフィルター近くまでになっていた。
「おめでとさん」
沈黙を破り、煙草を灰皿に押しつけて火を消した藤堂さんは、軽く肩を叩いてきた。
「ありがとうございます」
俺の言葉を聞いて目を合わせて柔らかい表情を浮かべ、そして再び煙草に火をつけた。