勿忘草―愛を語る花言葉―

フィルターギリギリまで吸った煙草から灰が地面に落ち、風によって跡形もなく消えていく。


手持ちぶたさになった俺は、缶コーヒーに手を伸ばし手中におさめた。



「……ったく、冗談だよ。そんな辛気臭い顔はやめろって」



藤堂さんは既に三本目となる煙草を吸いながら、俺の頭を小突き笑みを浮かべた。


まるで心の中を見透かされているようで、返す言葉さえ見つからない。



「俺はな、お前が選ばれて納得してんだから。俺らの上司も見る目あるよなって」



そうなんだろうか?


確かに尊敬できる上司ではあるけれど、今回の人選に関してはそうは思えなかった。


社内の大半が憧れている海外での仕事。


それを任されたわけなんだから、本当はこんなこと思っていたらいけない。


だけど、どうしても考えてしまうんだ。


自分の中で喜びと戸惑いの気持ちが交錯する。



「なぁ、佐倉。人にはな役割ってもんがあるんだ」



藤堂さんはそう言うと煙草の火を消し、缶コーヒーを飲みはじめた。



「役割ですか?」



藤堂さんの言葉に反応しつつ首を傾げながら、俺は缶コーヒーのプルトップに手をかけた。




< 9 / 75 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop