勿忘草―愛を語る花言葉―
フィルターギリギリまで吸った煙草から灰が地面に落ち、風によって跡形もなく消えていく。
手持ちぶたさになった俺は、缶コーヒーに手を伸ばし手中におさめた。
「……ったく、冗談だよ。そんな辛気臭い顔はやめろって」
藤堂さんは既に三本目となる煙草を吸いながら、俺の頭を小突き笑みを浮かべた。
まるで心の中を見透かされているようで、返す言葉さえ見つからない。
「俺はな、お前が選ばれて納得してんだから。俺らの上司も見る目あるよなって」
そうなんだろうか?
確かに尊敬できる上司ではあるけれど、今回の人選に関してはそうは思えなかった。
社内の大半が憧れている海外での仕事。
それを任されたわけなんだから、本当はこんなこと思っていたらいけない。
だけど、どうしても考えてしまうんだ。
自分の中で喜びと戸惑いの気持ちが交錯する。
「なぁ、佐倉。人にはな役割ってもんがあるんだ」
藤堂さんはそう言うと煙草の火を消し、缶コーヒーを飲みはじめた。
「役割ですか?」
藤堂さんの言葉に反応しつつ首を傾げながら、俺は缶コーヒーのプルトップに手をかけた。