恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
プロローグ
「かくとだに えやは伊吹の さしも草
さしも知らじな 燃ゆる思ひを」
「え……?」
中学1年生の2月。
風にほんのりと暖かさが含みはじめ、春の訪れを感じる季節のこと。
放課後の古典研究部の部室で、ぼんやりと窓の外から見える透き通るような浅葱色(あさぎいろ)の空に目を奪われている時だった。
彼はひとつの和歌を詠んだ。
私は古典研究部に所属しながら、和歌も古文もさっぱりで、きょとんとしながら振り返る。
「ははっ、清奈(せいな)は相変わらず、和歌はからっきし駄目だな」
濡れ羽色の黒髪と瞳を持つ彼が机の上に軽く座り、お世辞でも上品とはいえない格好でふわりと微笑んだ。
彼は藤原雅臣(ふじわら まさおみ)先輩。私をこの古典研究部に誘った張本人で部長だ。
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