恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
プロローグ

「かくとだに えやは伊吹の さしも草
さしも知らじな 燃ゆる思ひを」


「え……?」


中学1年生の2月。

風にほんのりと暖かさが含みはじめ、春の訪れを感じる季節のこと。

放課後の古典研究部の部室で、ぼんやりと窓の外から見える透き通るような浅葱色(あさぎいろ)の空に目を奪われている時だった。

彼はひとつの和歌を詠んだ。

私は古典研究部に所属しながら、和歌も古文もさっぱりで、きょとんとしながら振り返る。


「ははっ、清奈(せいな)は相変わらず、和歌はからっきし駄目だな」


濡れ羽色の黒髪と瞳を持つ彼が机の上に軽く座り、お世辞でも上品とはいえない格好でふわりと微笑んだ。

彼は藤原雅臣(ふじわら まさおみ)先輩。私をこの古典研究部に誘った張本人で部長だ。

< 1 / 226 >

この作品をシェア

pagetop