恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「こんな騒ぎの中、復帰するなんて……」
最後まで言わずとも、紫ちゃんには伝わったらしい。
私に「そうだね」と言って深刻そうに頷き、ポツリと呟く。
「噂って、ひとり歩きするから……」
「紫ちゃん……」
実体験から出た言葉なのかもしれない。
紫ちゃんがどんなに真剣に取り組んでいるのかも知らないで、小説の事を面白おかしく、クラスのみんなにからかわれていたから。
嘘から出たまこととは本当で、口から出たら異論を唱えない限りどんどん事実として伝わっていってしまう。
その被害者であるから、紫ちゃんは辛そうな顔でそう言ったのだ。
「小町先生が部室に来たらさ」
ほとんど自然に、私は声に出していた。
紫ちゃんはわかってるよ、と言わんばかりに私の腕に手を添える。
「私達だけは、小町先生の居場所になってあげようね」
「紫ちゃん……うんっ」
紫ちゃんも、同じ気持ちだったのかもしれない。
私の言いたい事を代弁して、にっこりと微笑んでくれる。
古典研究部の仲間は、色んな事情を抱えている。
そして顧問である小町先生も仲間だ。
だから、雅臣先輩がありのままの私たちを受け入れてくれたように、今度は小町先生の居場所になりたいと、そう思った。