恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。


「うつつには さもこそあらめ 夢にさへ 
人めをもると 見るがわびしさ」


小町先生は、か細い鈴の音のような声で和歌を詠んだ。


この和歌って……先生、まさか……。

その身に秘めた忍ぶ心に、薄々気づいてしまった。

私は早まる鼓動を感じながら、踵を返して静かに朝霧先輩に背を向ける先生を切ない気持ちで見つめる。


「思へども 験もなしと 知るものを 
何かここだく 我が恋ひわたる」


静かにもうひとつ和歌を詠み、私たちとは反対側の廊下へ歩いていく。

それを、朝霧先輩は追いかけなかった。

悲しげな眼差しで小町先生を見送っている彼の拳は、固く握られていた。


「……なんでだよ……なんで!!」


朝霞先輩の悲痛な叫びは、小町先生への想いがまだ消えていない事を物語っていた。

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