恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「そんな夢を見てしまう事が、寂しいって和歌なんです」
朝霧先輩は「え?」と言って、目を見開く。
「それから最後の和歌……どんなにあなたを想っても仕方ないとわかっているのに、どうしてこんなに恋しく切ないんでしょう」
古典研究部の顧問である小町先生は、和歌が本当に好きな人なんだろう。
想いを歌に乗せるなんて和歌が好きでなければ、しないだろうから。
それにこの歌を聞いた時、口ずさんだ先生の切なさがひしひしと伝わってきた。
この和歌こそ、小町先生の本当に伝えたい事だったのだと思う。
「なんだよ、それじゃあまるで……」
信じられないとばかりに狼狽している朝霧先輩に、私は首を縦に振った。
「小町先生は……朝霧先輩が好きだけど、踏み切れない事に苦しんでるんですね……」
先生や目の前の朝霞先輩の気持ちを思ってか、紫ちゃんは気遣うように付け加える。
人を好きになる事に理由はいらないし、恋してはいけない人なんてこの世にはいない。
──なんて綺麗事を言ってみるけれど、世間が許さない恋もあるんじゃないかな。
先生と生徒、その肩書きが障害になっている朝霞先輩たちは、現に身分違いの恋に苦しんでいる。
でも、好きになってしまった時はどうすればいいんだろう。
もし私と雅臣先輩が、どうしても超えられない壁に恋を阻まれたら、どうするだろう。
……答えは、ひとつだ。
私はどんな理由があったとしても、この恋を諦めるなんてできない。
そうしなきゃいけないとしても、心に君が居座っているから、無理なんだ。
それを失うという事は、私の心も失うのと同じだと思う。
そんな痛みをふたりには、味わって欲しくないな。
目の前で終わろうとしている恋に、私はなにか出来ないかと考えを巡らせる。