恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。


「小町先生の教師としての立場も考えないで……本当なら先生の居場所も心もぜんぶ、俺が守ってやらなきゃなんなかったのにな」


唇を噛み、強く拳を握る朝霧先輩。

その頬にはラウンジの窓から差し込んだ日差しに、キラリと輝く雫が伝っていた。

誰かを守るって、難しい。

どんな障害も跳ね除けて、恋を貫く事が相手のため。

そう思っていても、本当はただの独り善がりで一番大切な人を傷つけてしまう事もあるから。


「あの人は、悔しいけど俺よりずっと大人だ。だからきっと、俺が高校を問題なく卒業できるように身を引いたんだと思う」


その言葉に、私はハッとした。

もしかして……最初の和歌で先生が人目を気にする理由。

あれって先生自身がというより、朝霧先輩が学校で変な目で見られてしまわないかが、心配だったから詠んだのかもしれない。


「今のままじゃ、あの人には追いつけない。だから、すぐに小町先生と一緒になりたいとか、わがままは言わない」


私達に話しかけているようで、そうじゃない気がした。

朝霞先輩は自分に誓うように、ひと言ひと言をしっかり噛み締めている。

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