恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「大丈夫ですよ、うちの部長って人間タラシなんです。先生だろうと連れてきてくれます」
どんな人であろうと、この人のそばにいたい、この人になら話せる。
そう自然に思わせる雅臣先輩は、天然記念物級の人間タラシだと私は思っている。
彼なら持ち前の人を惹きつける力で、小町先生を呼んでくれる事だろう。
「それに休職してたとはいえ、小町先生は古典研究部の顧問です。呼び出す理由はいくらでもありますよ」
「挨拶がしたいとか、別におかしくないですよね」
紫ちゃんも朝霞先輩を励ますように、付け加えてくれる。
そのおかげか、ようやく朝霧先輩の顔にも安堵の色が見えた。
どうにかこうにかして、彼を紫ちゃんと励ましながら部室の扉の前に到着する。
すると、扉の向こうから騒がしい声が聞こえてきた。
『くれぐれも、不祥事は起こさぬようにお願いしますよ』
扉越しにくぐもった声は、明らかに不穏な空気を纏っている。
何事だろうと私は紫ちゃんや朝霞先輩と顔を見合わせて、緊張しながら扉の取っ手に手をかけた。