恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。


「だから、そんなバカげた心配しないでくださいよ」

「バカですと! どうやら、あなたとはきっちり話をした方がいいみたいですね!」


顔が赤くなるほどに、教頭先生は怒っていた。

ズカズカと朝霞先輩に近寄ると「来なさい、朝霧!」と言って、その腕を強く掴む。


「はいはい」


彼は抵抗せずに引っ張られるようにして扉の方へ歩いて行く。その背中に泣きそうな顔で小町先生が「待って!」と叫んだ。

けれど、朝霧先輩は振り返らない。

振り返ってはいけない、そう思ったのだろう。

お互いを大切だと思われてはいけないから。


「……瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の
われても末に あわむとぞ思ふ」


背を向けたまま、朝霧先輩は告げた。

これは決して終わりではない、約束の和歌。

他人にはバレず、古典教師である小町先生にだけ伝わる秘密の告白。

その意味を理解したのか、小町先生の瞳からは大粒の涙が零れ落ちた。

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