恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
そして和歌を歌い終えると、朝霞先輩は1度も振り返る事なく部室を出ていく。
カラカラと寂しく閉まっていく扉に、小町先生が「うぅっ」と嗚咽を洩らした。
「川の……流れが早いから、岩にせき止められた流れが一度は分かれても……またひとつになるように……」
震える涙混じりの声で、小町先生は朝霞先輩の告白をなぞるように意味を唇に乗せる。
「たとえ今は恋しい人と別れても……将来は必ず、結ばれると信じています……っ」
これは生徒と教師という立場ゆえに、今は別れても。
朝霧先輩が大人になったその時は、小町先生と結ばれたいという意味。
彼が小町先生に向けた告白であり、未来への約束でもある。
「朝霞先輩は、待っていてほしいんだそうです」
私の言葉に小町先生は目に涙を浮べながら、「えぇ、いつまでも待つわ」と微笑んだ。
その笑顔が見られてよかったと、心の底から思う。
「あの子が大人になって、私を迎えに来る……その日まで」
そう言った小町先生の顔は、強く前を見据えていた。
もし、許されない恋をしてしまったら。
恋してはいけない人を、好きになってしまったら。
私も小町先生や朝霧先輩のように、どんなに時間ががかっても結ばれる未来を信じ続けたい。
そんな強さを私も持ちたいと、ふたりを見ていて思った。