恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「部活……ずっと任せっきりになってしまって、ごめんなさいね」
「いえ、俺も小町先生が元気そうで安心しました」
けれど、雅臣先輩はそれを訂正しない。
空耳……なわけないよね。
確かに聞こえたし、だとしたらどういう事なのだろうか。
雅臣先輩が景臣と呼ばれた理由がわからない。
電車は高校の最寄り駅のひとつ前で降りるし、あげくトイレに行きたかったからとか、嘘つくし、時々悲しげに笑うのも、ぜんぶが謎に包まれている。
なんとなく、ここで声をかける勇気が出なかった私は、足音を立てないように踵を返した。
全てを知ってしまったら、雅臣先輩は私の目の前から消えてしまうような、そんな気がする。
──なんて、わけのわからない事を考える。
私は思考がまとまらないまま、静かに職員室を離れて下駄箱で雅臣先輩を待つ事にした。
そして5分くらいして、雅臣先輩はやってきた。
「あれ、こんなところでどうした?」
「…………」
変わらぬ笑顔で、私に話しかけてくる雅臣先輩。
ねぇ、先輩。
先輩は私に、何を隠してるの?
頭の整理もつけられず、平然を装う事ができなかった私は、何も言えずに俯いてしまう。