恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
忘らるる
「…………」
「清奈?」
黙って下駄箱の前に立ち尽くす私の顔を雅臣先輩はのぞき込む。
私が何も知らないと思って、彼は嘘を簡単に笑顔の裏に隠してしまう。
昔から、そうだっただろうか?
ううん、少なくとも中学生の彼からは裏とか、嘘とか、そういう影を感じなかった。
なにが、彼を変えたんだろう
今、目の前で微笑んでいる雅臣先輩は別人みたい。
私は戸惑いながら、彼を見上げた。
「雅臣先輩を……待っていたんです」
「俺を? そっか、じゃあ一緒に帰ろう」
「はい……」
心の中でいくら問いかけても、声にはならない。
私はどこかで、雅臣先輩と向き合う事を恐れているのだと思う。
先に歩き出した雅臣先輩の背に続いて、私も校舎を後にする。
夏は日が長いせいか、時刻は午後18時を回ったというのに空は明るかった。
そして自転車置き場を通過した辺りで、私はまた違和感に気づく。