恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「それより小町先生の事、ありがとな」
隣を歩く雅臣先輩が、突然お礼を言ってくる。
なんの事だろう。
心当たりがなくて、キョトンとしてしまう私に気づいた雅臣先輩は柔らかな微笑みを向けてくる。
「俺が古典研究部を立ち上げる時に、小町先生には世話になったんだ」
そうだ、元々この高校には古典研究部がなかった。
立ち上げるには部員も顧問も必要だから、大変だったろうな。
私が彼と同じ学年だったなら、良かったのに。
あと2年早く生んでくれたらと、今さらどうにもならない事を考えてしまった。
「でも6ヶ月前に朝霧と付き合ってる事が学校中にバレてから、学校にも来れなくなって……何もできない事が歯がゆくてな」
「雅臣先輩は……優しいですね」
損得なしに、誰かの事を常に気遣っている。
雅臣先輩はきっと……どんな重大な罪を犯した人間にでも、まるで菩薩みたいに微笑んで、迷う事なく受け入れるんだろう。
けれど雅臣先輩は「俺はお節介な性分なだけなんだよ」とおごる事なく笑ってのけるから、やっぱり尊敬する。
「清奈が朝霞達に向き合う勇気をあげなければ、きっとふたりは悲しいすれ違いをしたままだった」
「そんなおおげさですよ」
「全然大げさなんかじゃないぞ」
「え……?」
雅臣先輩は、私の頭に手を乗せる。
その手の大きさに、温かさに、私の心臓はドキンッと跳ねる。
出た、雅臣先輩の不意打ち。
それに私は、いつも落ち着かなくなってしまう。
他の人と好きな人との違いは心も体もその人に乱されるか否か、そこにあるのかもしれないと思った。