恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「なんにも、わかりませんよ……」
どこまで知ったかなんて、他に何を聞かされてないのかも、私には何ひとつわからない。
足元を見つめて唇を引き結ぶ彼は、知られた事に逃げ出すことなくそこに留まっている。
知られたくないから、必死に隠していたんじゃないの?
辛抱強くこの場に踏み留まっているのは、なぜだろう。
「……そうか、ごめんな」
そう言った彼の顔は、見た事がないくらいに歪だった。
今にも泣き出しそうで、至る所に深い皺を刻んでいる。
「隣、座るな?」
彼は私を雨から守るように傘を傾けたまま、恐る恐る隣に腰掛けてきた。
「なにが、ごめん……なんですか」
「…………」
彼が腰掛けたのを見計らって、私は苛立ち混じりに尋ねる。
しばらく黙りこくっていた彼は、ふうーっと深い息をつく。
それをただ、待ち続ける時間というのは苦痛だった。
君から聞かされる新しい真実は、きっと今まで信じてきたモノを偽りと断定づけるだけだから。
処刑台の前で自分の処刑を待つ囚人のように、熱い血がドクドク脈打つのを感じる。
「……そうだよな。清奈には……俺が何に対して謝ってるのかも、わからない」
「そうですよ……わからない事ばっかり!」
悲しみを体から全て押し出すように、叫んだ。
そんな私の隣で、雅臣先輩が肩を震わせたのがわかる。
だって、君はいつも笑顔で誤魔化してばかりだった。
なにも本心を見せてくれない、それが寂しくてたまらない。
信じたいのに、嘘をつかれて苛立ちが抑えきれない。