恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「……清奈、俺は……」
彼の声の余韻は、行き先を無くして空気に溶け込もうとしている。
たどり着く事を、それで私に知られる事を恐れているのだ。
彼はどこまで知っているのか、と私に問うた。
それは裏を返せば、察しているから出た言葉じゃないだろうか。
それでも自分の嘘を認めたくないから、君は私に語らないのかもしれない。
まだ、私に隠そうとしているの?
心の中から黒い感情がせり上がってきて、喉の奥で止まる。
声にならないように堪えて、なんとか罵倒を飲み込んだ。
憤りを深いため息と共に吐き出すと、静かに彼の正体を暴く。
「景臣……それが、私の目の前にいるあなたの名前ですね?」
「っ──あぁ、そうだよ」
彼は一瞬息を呑むと、雨音に消え入りそうな心で認めた。
彼が頷いて初めて、私の心にも目の前の彼が藤原影臣という存在なのだと、納得はいかないが受け入れる事はできた。
「景臣先輩は、雅臣先輩と兄弟なんですか?」
「そうだ、俺は雅臣の双子の兄だ」
「双子!?」
まさか、雅臣先輩が双子だったなんて……。
驚きで、私は息をすることさえ忘れる。
でも、本当にふたりはそっくりだった。
纏う雰囲気や笑い方に違和感を感じた事はあったけれど、容姿に関しては瓜二つだ。
景臣先輩は驚愕の表情を浮かべる私に気づいてか、「一卵性双生児なんだ」と教えてくれる。
こんなにも似ているものなのか、それにしたって、どうして私は気づかなかったんだろう。
初恋の人と、お兄さんを間違えるなんて……薄情なのは私の方じゃないか。
「じゃあ、雅臣先輩は……」
「さっき清奈が話した男が、中学時代に清奈を古典研究部に誘った……雅臣だ」
「でも……さっき会った雅臣先輩は、私の事なんて覚えてなかったんですよ?」
今目の前にいる景臣先輩の方が、私の事を知っている。
初めて高校の古典研究部の部室を訪れた時も、景臣先輩は呼んだんだ……私の名前を。