恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
『もしかしたら、清奈が追いかけてきてくれるかもしれないから』
365日和歌にしか興味がない雅臣の口から、女子の名前が出た事に一瞬ギョッとする。
しかし、すぐにどこかで聞いた事があるような気がして、頭を働かせる。
すると、こんがらがっていた思考の糸が解けていくように、ある記憶にたどり着く。
『あぁ、雅臣が部活に誘った子の事か』
確か、1年だったか?
部員がひとり入ったって、家で喜んでいたのを思い出す。
俺の答えは正解だったのか、雅臣は満足そうに頷くと、「実はね」と含みを持たせて続けた。
『あの子に告白したんだ』
『……は?』
それは、初耳だった。
でも休日は家にいるか、俺と出掛けるかのどちらかで、付き合っているような素振りはない。
もしかして、うまくいかなかったのか?
そう思ったら、結果なんて聞けなかった。
友人の恋愛相談ならまだしも、兄が出しゃばったところで腹が立つだけだろう。
弟となると、余計になんて声をかけたらいいのかが、わからない。
悩んだ末、無理やり話を変えようと策を練っていると──。
『たぶん、清奈は告白だってわかってないと思う。和歌の事はからっきしなんだ、あの子』
人が避けようとした話題を、自ら掘り下げてきた天然な弟に、俺はあんぐりと口を開ける。
そう、我が弟は救いようのない天然だ。
自分で自分の首を絞めるような事を、マシンガンのように撃ち込んでくるから恐ろしい。
『って──雅臣、和歌がわからない子に和歌で告白したのか?』
『ははっ、気恥ずかしくてさ』
それは、自業自得だろう。
わかるよう告白しないでどうする。
相手に伝わらなければ、なかった事と同じになるんだぞ。
古典オタクもこじらせるとこうなるのかと、俺は呆れた。