恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
『お前、いい男だな』
関心したように言う俺に、雅臣はぶはっと吹き出した。
相当ツボに入ったのか、しばらくお腹を抱えて目に涙すら浮かべている。
いい加減笑すぎだと雅臣を小突こうとしたら、ヒラリと避けられた。
『景臣も清奈に会ったらわかるよ。あの子は自分には何もないと思ってるけど、無意識にそばにいる人間を癒してるんだ』
『へぇ……』
誰かをそこまで一途に思える雅臣が羨ましい。
雅臣は唯一無二の女の子に、出会えたんだろうな。
それを俺も嬉しい気持ちで、聞いている時だった。
『──景臣、危ない!』
『えっ……』
切羽詰まった雅臣の声が聞こえた瞬間、ドンッと体が強い力に押される。
俺はその勢いで後ろに吹き飛び、地面に転がった。
地面にぶつかった拍子に瞑った目。閉ざされた視界の中、耳をつんざくような車のスリップ音と生暖かい突風が俺を襲う。
頭が真っ白になり、動けないでいると少しして風が止む。
辺りが静まり返ると、俺は恐る恐る瞼を持ち上げる。
『何が、起こったんだ……』
ゆっくりと上半身を起こすと、最初に見えたのは歩道に突っ込む半壊した車だった。
そして、そのすぐそばで倒れる人物。
その姿を瞳に映した瞬間、頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を受けた。
『ま……ま、雅臣……?』
嘘だろう、なんでお前が倒れてるんだ。
さっきまで、隣で幸せそうに笑っていたじゃないか。
頭から血を流して倒れている、自分そっくりの人間。
その手は力なくだらりとコンクリートの上に伸びており、その目は固く閉じられている。
そこにいたのは──弟の雅臣だった。
『おい……おい、雅臣……!』
痛む体に力を込めて、立ち上がる。
恐怖で膝から崩れ落ちそうになりながら、雅臣に駆け寄った。
『雅臣……!』
倒れ込むようにして雅臣の体に縋ると、上半身を抱き起して何度も名前を呼ぶ。
ふと背中に当てた手にべっとりとした液体がついたのに気づいた。
自分の手のひらを見ると、赤黒いドロッとした液体が付着していて、わずかに鉄の臭いがした。
なんで、雅臣は目を開けないんだよ……。
何度声をかけても、ピクリとも動かない。
もしかして……と、最悪の状況が脳裏を過ぎる。
その瞬間、たぶん俺は壊れたのだと思う。