恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「本当に……ごめんな」
景臣先輩は、ただそれだけを繰り返す。
私は謝罪を聞きたかったのだろうか。
ううん、違う。
だって、ごめんなって言われても胸の痛みは和らがないから。
体は雨に濡れて冷たいのに、頬に生暖かい水が伝う。
泣いている事に気づいて、私はそれを乱暴に手の甲で拭った。
「守りたかったのに……結局傷つけて、ごめん」
景臣先輩はそう言って傘を石段に置くと、縋るように私を見つめて立ち上がった。
「……大切だったのに、ごめんな」
「っ、触らないで!」
伸ばされた手を私は勢いよく振り払った。
パシンッと乾いた音が神社の境内に響き、途端に罪悪感がわく。
「私、なんで……」
自分の手のひらと、呆然と立ち尽くす景臣先輩の顔を交互に見つめて、1歩、また1歩と後ずさる。
こんな事がしたかったわけじゃないと、私は子供みたいに首を横に振った。
こんなの、いくらなんでもやりすぎだ。
でも、なんで景臣先輩は私を大切だなんて言ったのだろう。
あぁ、もしかしてまた雅臣先輩の代わりだろうか。
恋のきっかけをくれた人と、恋心を膨らませてくれた人は別の人。
だからなおさら、景臣先輩に『大切だった』なんて言われて、どうしたらいいのかわからなかった。
「……ごめんな」
景臣先輩はまた、私に謝る。
なんて、悲しい関係なんだろう。
私と景臣先輩を繋ぐのは……罪悪感、それだけだ。