恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「でも、景臣くんは清奈さんのために、嘘をついていたのよね?」
小町先生の言葉に、私は「はい」と頷く。
でも業界吉先輩は、「それにしたってよ」と不貞腐れるように頬杖をついて、テーブルの木目に視線を走らせながら続ける。
「話してくれればいいのにって、思っちまう」
それは、私も同じ気持ちだった。
大切だからこそ、なんでも話してほしい。ひとりで悩まないで欲しい。
だって、知らなければ助けてあげる事ができないから。
そんな一方的な思いで、私はあの雨の日に彼を責めてしまった。
どうして、初めから話してくれなかったのかと。
そこで「でも……」と遠慮がちに紫ちゃんが声を上げる。
みんなの視線が集まると、少しだけ体を縮こませた紫ちゃん。
いつもの和やかな雰囲気が部室から消えてしまっているせいか、緊張しているみたいだった。
「紫さん、大丈夫だから、あなたの話を聞かせて?」
小町先生が励ますようにその背中に手を当てると、強ばっていた表情を緩めてもう一度口を開く。
「本当に守りたいから、言えなかったんじゃないでしょうか?」
「紫、それってどういう意味だよ」
業吉先輩は片眉を持ち上げて、怪訝そうな顔をする。
彼が威圧的な態度なのは標準装備なのだが、今日は一段と圧が強い気がした。
これも、景臣先輩という陽だまりを失ったせいなのだろう。
彼の優しい雰囲気は、みんなの緊張を自然に和らげてくれていたから。
「弟さんの事も清奈ちゃんの事も、大切なんですよ。でなきゃ、自分の存在を殺してまで、弟さんのフリなんてできないと思って……」
それは、確かに紫ちゃんの言う通りだと思う。
だけど、最初から話してくれれば、真実を知ってこんなに傷つく事もなかったんじゃないかとも思ってしまうのだ。
なにより、影臣先輩を犠牲にして私が救われても、何も嬉しくない。