恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
「景臣先輩は転校する日まで、学校にこないんですか?」
「そうかもしれないわね……」
紫ちゃんの言葉に、小町先生も苦い顔をする。
景臣先輩は……来ない気がする。
自分がいると、私が傷つくって思っているから。
じゃあ、もう二度と目の前には現れないつもりなのだろうか。
「そんな……」
私が声を漏らすと、みんなも絶望したような顔で俯く。
景臣先輩がいないと私たち……どこへ向かって歩いていけばいいのか、わからないよ……。
景臣先輩がいたから、私達は出会って、居場所を手に入れて、自分らしく笑っていられたのに。
そして、私達は成す術がないまま、日にちだけが経っていった。
焦りはあるものの、彼を失ったショックで動き出せずにいたら、あっという間に景臣先輩の転校の日は明日に迫っていた。
ずっと言いたかった事がある。
君の居場所はここにあるって事。
君がどんな悪人だったとしても、私もみんなもありのままの君を受け入れるよって事。
朝起きてリビングに入ると、何か言いたげな顔でお母さんが私の目の前に立った。
「あの、清菜──」
「……おはようございます」
私は珍しく声をかけてきたお母さんを突き放すように、冷たく挨拶だけを返した。
目線を合わせないよう、ダイニングテーブルの椅子に腰をかける。
しばらくして、静かに食事が始まった。
うちの食卓は、いつも葬式のように静かだ。
基本的に3人が揃う事はないし、両親がいても会話がない。
だから、今日みたいにお父さんもお母さんもそろって朝食を食べている事に内心驚いていた。
「お前、俺たちに言う事があるだろう」
お父さんは目玉焼きを箸で丁寧に一口大に切りながら、私の方を一切見ずにそう言った。
たぶん、喧嘩したっきり私が謝らない事を根に持っているんだろう。
わかってはいたが、しらばっくれて「言うこと?」と聞き返してやる。
あれは私の正直な気持ちだから、謝るつもりなんてなかった。
「とぼけるな、お前は親に向かって暴言を吐いたんだぞ」
「お父さん……」
珍しく、お母さんがお父さんを止めるように声をかけた。
でもお父さんの怒りは収まらないのか、私を睨む。
「今日から部活に行くことは許さん。部活に行くくらいなら、塾に行って少しでも身になる事をしろ!」
怒鳴ったお父さんに、私は静かに箸を置いた。
そしてため息をつくと、ご飯を半分以上残して立ち上がる。
「清奈、ご飯がまだ残って……」
「今は勉強よりもなによりも、やりたい事があるから」
お母さんの言葉を遮って、私はハッキリと告げた。
私は今日、どうしても会いに行きたい人がいる。
想いを伝えたい人がいる。
そしてあの人が旅立ってしまっても、守りたい場所がある。
そのために私は、これからの時間を使っていきたい。
だって私の人生は私のモノ。誰にも縛る権利なんてない、私は自由だ。彼がそう、教えてくれた。
「なんだと、父さんの言葉以上に大事な事なんて──」
「お父さんとお母さんの言葉が全て間違ってるとは言わない。けど、これからは自分の心に従って生きていくから!」
お父さんの言葉に被せるようにして、自分の気持ちを伝えた。
驚きに言葉を失っている両親を置き去りに、私はソファーに置いていたスクールバックを肩にかけると家を飛び出す。
もう、誰かのレールの上を生きるのは終わり。
これから先は、自分らしく生きていく。
そのための一歩は、君に好きと伝える事だ。