恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。
『2番線、電車が参ります。白線の内側までお下がりください』
私はいつもと同じように通勤、通学ラッシュの電車に乗りこむ。
人の間に挟まれて、身動きができないすしずめ状態の車内。
君がいないのに、私の日常は変わらず過ぎていく。
ただ、胸の痛みだけを残して。
「…………」
君に会いたい、けど会えない。
──ねぇ、景臣先輩。君は今どこにいるんですか?
君の事を想うと、場所なんて関係なしに涙が出る。雫が零れ落ちて、私は泣き顔を見られないように俯いた。その時だった。
「大丈夫?」
「え……」
聞き覚えのある声に、私はゆっくりと顔を上げる。
瞬きと同時に落ちた涙を、目の前の誰かが指先で拭ってくれた。
「また、君に会うとは思わなかったな」
「……あっ」
まさか、こんなところで再会するなんて。
今日は雨が降ってないのに……。
私は震える唇で、昔から変わらない陽だまりのような空気を纏いながら、微笑んでいる彼の名を呼ぶ。
「雅臣先輩……?」
「やあ、清奈」
そこにいたのは、藤原雅臣。今、こうして改めて彼を見てみると、はっきり違いがわかる。
雅臣先輩は昔から子供のように無邪気で、一緒に楽しい、嬉しいを共有する。純粋な瞳を曇らせないまま、大人になったような人。
そして、影臣先輩は──この世界の光も闇もその瞳に映して、輪郭がおぼろげで……。
その人の幸せだけを願い、自分を犠牲にしてしまうくらい優しすぎる人。
ふたりは似ているようで、似ていない。
守り方も世界の見方もなにもかも、ふたりは別々の人間だ。
「今日、雨じゃなにのに電車なんですね」
「俺、明日引っ越すんだ。だから、自転車置き場を解約しちゃって」
あ……やっぱり、雅臣先輩も景臣先輩も転校しちゃうんだ。
本当にいなくなってしまうんだと思うと、胸がズキズキと痛みだす。
そういえば、記憶障害が進行してるって言ってたけど、雅臣先輩は見た感じ元気そうに見えてホッとした。